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「自動洗車はドル箱」と投資家が熱い視線 技術力アップと定額制で「魅力」倍増

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「エキスプレス(特急)洗車」に入る直前に、洗車場スタッフがボディにこびりついた汚れを水流で落とす。次々に車が洗車施設に入っていく。アリゾナ州ツーソン近郊で筆者撮影

 米国で自動洗車市場に注がれる投資家の視線が、一段と熱くなっている。国内の登録車両台数が増え続けていることが根底にあるが、自動洗車機の技術の向上や、ネットフリックスなど動画配信サービスと同じような料金制度を導入したことで企業側が安定した収入を見込めるようになったからだ。投資ファンドが自動洗車会社を買収したり、個人投資家が洗車場経営に乗り出すなど投資の形態も多様化しており、根強いブームが続いている。

 最新の米国の登録車両台数は約2億8236万台(2021年)で、過去5年間で2.3%増加した。この傾向は今後も続くとみられ、洗車の需要は一段と高まると予測されている。世帯別では3台以上保有する世帯が増加しており、市場関係者は、既に洗車場がある地域でも新たな洗車場が必要となる可能性が高いと分析している。

 かつて米国で洗車と言えば、多くの人手が必要な典型的な「労働集約型」産業だった。映画やテレビドラマなどにも度々登場する、数人で1台の車を手洗いする「フルサービス洗車」が業界を独占していた。

 「フルサービス洗車」だと1台の洗車にかかる時間は約45分。車の所有者は車から降りて、洗車が終わるのを待たねばならなかった。

 自動洗車機が誕生し、洗車にかかる時間が10分以下で済むようになると、多くの消費者が自動洗車に流れた。

 その自動洗車の技術が最近、急速に向上した。洗車時間は一段と短縮され、コストも軽減されたことから、ドライバーが洗車に行く機会が増えているのである。

 自動洗車のこれまでの主流は、ガソリンスタンドやコンビニエンスストアに設置されている「インベイ洗車」と呼ばれるタイプだった。顧客は車に乗ったまま洗車機のある区画に車を止めれば、洗車機が自動的に洗ってくれる。

 これに対し最近、特に設置が増えているのが「エキスプレス(特急)洗車」と呼ばれる洗車施設だ。車をベルトコンベアに乗せて移動させながら、トンネルのような施設内で洗車する。洗浄、すすぎ、ワックスなどがトンネル内で完了する。

 洗車終了後、車内の清掃を顧客本人がするか、洗車場スタッフに任せるかなど、様々なオプションがあるが、基本的にオートマティックである。

 これまでもトンネルタイプの自動洗車場は各地にあったが、技術の向上で処理能力が格段にアップした。

 「エキスプレス(特急)洗車」では同時に数台の洗車が可能だ。洗車のスピードがアップし、1時間で洗車できる台数は、トンネルのサイズに応じて40~180台にもなる。「インベイ洗車」の場合、同時に複数の洗車はできないため、1時間当たりの洗車可能台数は10台程度にとどまる。

 自動洗車会社は競って最新型の「エキスプレス(特急)洗車機」を導入し、収益率強化を図っている。

 自動洗車業界が投資家から注目を集めているのは、技術の向上だけではない。料金制度の見直しにより、業界への投資家の視線ががらりと変わった。

 以前、洗車は1回ごとに料金を支払うことが主流だったが、自動洗車各社は、毎月、決まった料金を支払えば何度でも洗車ができる定額制を導入した。業界最大手のミスター・カー・ウォッシュ(本社・アリゾナ州ツーソン)では、最も基本的なコースが1カ月19ドル99セントだ。これだけ支払えば何度でも洗車できる。このサービスにあたる単発での洗車料金は10ドルで、1カ月に2回以上洗車すれば得することになる。

 業界の調べでは、現在では利用者の約6割が定額制を利用しているという。

 これにより自動洗車各社は安定的な収入を得られることとなり、収益の向上につながった。米国のシンガーソングライターでダンサーでもあるジェイソン・デルーロは、ビジネス投資に積極的なミュージシャンとして有名だが、英国BBCのインタビューに対し、この料金制度があったからこそ自動洗車ビジネスに投資したと語っている。

 最近では、所有する車を資産とみなして整備を含めて車の状態を万全にしておきたいと考える市民が増えた。こうした市民感情に定額制はうまくはまった。1人あたりの洗車回数は増加し、1週間に2回洗車するドライバーも珍しくない。

 環境保護のため住宅地で使用できる洗剤を規制する自治体が増え、かつてのように自宅で洗車ができなくなった市民も多く、自動洗車はドライバーにより必要とされる場所になった。また、Uberなどの乗車サービスの普及も、自動洗車の利用数を増やす要因にもなっている。

 昨年10月中旬に取材でツーソン近郊を訪れた際、ミスター・カー・ウォッシュの洗車場に立ち寄ったが、洗車場にはひっきりなしに車が押し寄せていた。定額洗車ではなかったのに「1回の洗車でボディの汚れが落ちなければ無料でもう1回洗車してもいいよ」と店員に言われ、1回の料金で2回洗車した。米国らしい気風の良さが利用者には嬉しい。

 アリゾナ州は砂漠地帯で砂ぼこりが多く、車両に負担がかかる。このため自動洗車を利用するドライバーが多い。アリゾナ州で業界のトップ企業が育ったのは、自然環境によるところも大きいのかもしれない。

 全米の自動洗車業界は今後も、年間ベースで4~5%ほどの成長を続けるとされており、投資ファンドなどによる自動洗車会社の買収は後を絶たない。また、個人投資家がフランチャイズ形式で自動洗車場に参入するケースも少なくない。

 自動洗車は、雨や雪などが降ると利用者が激減する。天候や季節によって収入に差がでることが大きなリスクとして横たわる。

 また過当競争に陥っている地域もあり、投資先の土地柄への深い理解が必要となる。さらに洗車機器や土地の購入の初期投資が多額になることや、機器の故障に素早く対応しなければならないなどオペレーション上の負担も大きい。

 新型コロナウイルスの感染拡大で一時、自動洗車業界もダメージを受けた。しかし、自動洗車は人に接しないという点で急速に復活し、コロナ後も好調を持続させている。リスクは多いものの自動洗車市場が幅広い投資家の「希望の星」となっているのは、多方面の改革で業界が変身し続けているからだろう。

河野佐知男(フリージャーナリスト)

河野佐知男(フリージャーナリスト)

フリージャーナリスト。大手メディアを経て独立。アメリカ駐在経験を活かし、アメリカや中南米を中心に社会・政治・テクノロジー・エンタメなどを取材、幅広い媒体で執筆中。

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