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『マッシブ・タレント』ほか、大ヒット作の陰に埋もれた2023年傑作映画3選

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『マッシブ・タレント』Blu-ray&DVD発売中/デジタル配信中 ®, ™ & © 2023 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved.

 2023年の国内映画興行収入ランキングは、1位『THE FIRST SLAM DUNK』、2位『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』、3位『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』、4位『君たちはどう生きるか』と、アニメーション作品が上位を独占した。

 ここ数年はアニメ映画がずっと上位を独占している。2022年1位『ONE PIECE FILM RED』、2位『劇場版 呪術廻戦 0』。2021年1位『シン・エヴァンゲリオン劇場版』、2位『名探偵コナン 緋色の弾丸』、3位『竜とそばかすの姫』。2020年1位『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。2019年1位『天気の子』、2位『アナと雪の女王2』。

 実写映画が興行収入ランキングトップになったのは、2018年の『ボヘミアン・ラプソディ』まで遡らないといけない。アニメ映画の盛況で、2023年の年間映画興行収入は前年を上回ることがほぼ確定だ。この数字を見ると、コロナ禍で一部劇場が休館するほど追い込まれた時期を脱して、市場が回復したように見える。だがその陰で、小規模ながらヒットを出す作品の上映期間は狭められ、シネコンのスクリーンは大ヒットするアニメ作品が独占し、文芸作品などを公開するミニシアターは閉鎖が相次いでいる。

 ここ数年の市場は「爆発的にヒットする話題作」か「2~3週間で終わってしまう小作品」かの極端な状態になっており、中規模程度の作品は早々に劇場から消え去るか、ビデオスルーになってしまい、かつて中規模程度の作品を劇場で楽しんでいた世代の筆者は少しだけ寂しさを覚えたりもする。

 そこで今回は2023年の映画シーンを振り返る中で、「大ヒット作の陰に埋もれてしまった傑作たち」を3作、ご紹介します。

スーパーヒーロー映画とは真逆を行く、老舗TRPGの実写映画化

 1本目は『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』。テーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(略称D&D)を原作にした実写版映画だ。

 1974年に誕生したD&Dは世界初のRPGであり、長い歴史を持つ。日本ではその影響を受けたゲーム『ドラゴンクエスト』が大ヒットしたのでRPGといえばドラクエだが、すべての始まりはD&Dからだ。

 2000年代に原作ゲームの大ファンだというコートニー・ソロモン監督の手による実写映画がつくられたが、「本当にファンなの?」と言いたくなる、雑な『スター・ウォーズ』もどきのダメ映画で世界中が失望。イギリスで作られた第三弾『ダンジョン&ドラゴン3 太陽の騎士団と暗黒の書』のほうがまだ見るべきところがあったぐらい。

 リブートされた2023年作品はそんな黒歴史を払拭する出来映えであった。

 日本人の感覚では、「RPGというものは選ばれし勇者が仲間とともに悪の支配者である魔王を退治しにいく」という先入観があるが、『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』の主役は勇者でもなんでもない、平凡、いや平凡以下の男である。

 「決して見返りを求めない」秘密組織ハーパーに属する吟遊詩人のエドガン(クリス・パイン)は貧しいながらも妻子に恵まれ、つつましやかな生活を送っていた。しかし任務の最中、悪の魔法使いレッド・ウィザードの宝を盗んでしまい、報復として妻を殺されてしまう。

 娘キーラとどん底の生活を送っていたエドガンは開き直り、狂戦士のホルガ(ミシェル・ロドリゲス)、新米魔法使いのサイモン(ジャスティス・スミス)、詐欺師のフォージ(ヒュー・グラント)らと義賊として日々を送ることに。

 ある日、赤い魔法使いソフィーナ(デイジー・ヘッド)の誘いでハーパーの宝物庫から盗みを計画。宝の中には死んだ人間を生き返らせる「よみがえりの石板」があることから、エドガンは亡くなった妻のために石板を手に入れようとするが、ソフィーナの魔法で砦にホルガとともに取り残され、逃げ切ったフォージに石板と娘キーラを託す。

 2年後、極寒の牢獄から脱出した二人は、初めからソフィーナとフォージに騙されていたことを知り、娘キーラもフォージに吹き込まれたデタラメを信じ、父を軽蔑するようになっていた。

 エドガンらは石板とキーラを取り戻し、復讐を果たすため仲間を集めるため冒険の旅に出る。

 みんな「RPGの映画」というから、ヒーロー然とした勇者が魔物を蹴散らして大活躍する冒険物語をイメージするけど、出てくるやつらは全く正反対の連中だ。エドガンは口先は達者だが、目先の欲望に振り回されて取返しのつかないヘマをやらかし、人生を台無しにする。達成不可能な作戦を立てて、うまくいかなかければ「作戦Bがある! それがダメならCだ!」とほとんど詐欺師の口調。

 仲間たちも、伝説の大魔法使いの末裔だが自分に自信がないため実力を発揮できないやつとか、まったく主人公らしくない人間たちばかり。だが、そんなダメでどうしようもないやつらが、わずかな知恵と勇気を振り絞って悪と戦う。まさしく「アウトローたちの誇り」で、基本のルールブックさえあればあとはプレイヤーの自由さにゆだねられるテーブルトークRPGの本質を突いた映画といえる。

 原作のD&Dを知らなくても楽しめるし、知っていればさまざまな小ネタに笑うこともできる完成されたエンターテイメントとなっており、映画評論サイトのロッテントマトでは評論家評価91%、観客評価93%と高い支持を受けている。昨今のハリウッドはマーベルやDCのスーパーヒーロー映画の興行が軒並み下がっており、「スーパーヒーロー疲れ」とも言われる現象が起きている。肉体も精神もマッチョイズムに貫かれた「いかにも」なスーパーヒーロー映画より、強さよりも弱さを重点的に描き、それを凌いでいく『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』の物語に観客が魅せられたことが高評価につながったのだろう。

 だが製作費約207億円の本作の世界興行は約277億円と微妙な数字に終わり、続編のゴーサインはまだ出ていないのが残念だ。(→P2「エクソシスト映画に新しい風を吹かせたラッセル・クロウ主演作」

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