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『ゴジラ-1.0』はなぜアメリカで大ヒットし、日本では「シン・ゴジラ以下」なのか

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『ゴジラ-1.0』公式Xより

 アメリカ現地時間1月23日に第96回アカデミー賞のノミネートが発表された。受賞が有力視される『オッペンハイマー』、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』などが多数ノミネートに上る中、視覚効果賞部門で日本の『ゴジラ-1.0』がノミネートされたことが話題となっている。

 長い歴史を持つアカデミー賞の視覚効果賞に邦画作品がノミネートされたのは史上初の快挙である。

 1929年の第1回アカデミー賞では「技術効果賞」の名だった同賞は、1939年から1962年までは視覚効果・音響効果を合わせて「特殊効果賞」とされたのを経て、1963年から音響効果と再び切り離され、1963年は「特殊効果賞」、1964年から「特殊視覚効果賞」、そして1977年から現在の「視覚効果賞」という呼び名になった。

 1963年は当時では破格の予算を投じた『クレオパトラ』が受賞し、1968年は『2001年宇宙の旅』、1977年『スター・ウォーズ』、1979年『エイリアン』、1991年『ターミネーター2』、1993年『ジュラシック・パーク』、1999年『マトリックス』、2001年『ロード・オブ・ザ・リング』、2009年『アバター』と、時代を象徴する映像を見せつけた作品群が並んでおり、こうした名作たちと『ゴジラ-1.0』が肩を並べる可能性が出てきたのだ。

 アカデミー賞ノミネートの勢いを裏付けるかのように『ゴジラ-1.0』はアメリカで大旋風を巻き起こしている。邦画実写作品として全米歴代No.1となる興行収入記録を樹立し、公開から2カ月目の現在も北米600館以上で公開中。映画評論サイトのロッテントマトでも評論家、観客ともに満足度98%という空前絶後の支持率!

 なぜ、アメリカで今『ゴジラ』がこんなにバカ受けしているのか? そしてなぜ大ヒットしているのだろうか?

アメリカでのゴジラ人気をつくった2014年の『GODZILLA ゴジラ』

 時をさかのぼること1984年末。ゴジラシリーズを久しぶりにリバイバルした『ゴジラ』が日本で公開された。これはゴジラ生誕30周年を記念した大イベントだった。

 70年代のゴジラは、映画産業が斜陽になっていく中で興行不審に陥ったことから、「低予算ならやってもいい」という条件のもと制作された。アニメ映画と同時上映する「東宝チャンピオン祭り」のプログラムに組み込まれたゴジラは、低予算ゆえに建物のセットを組めず、「これは日本なのか?」と疑問に思う離島や荒野で怪獣と戦った。内容はどんどん子ども向きになり、大人が納得できるようなものではなかった(大きいお友だちは興奮していたけど……)。

 1984年の『ゴジラ』は子ども向け路線をリセットし、かつて東宝に未曾有の大ヒットをもたらした『日本沈没』(1973年)のようなSFパニック路線を目指した。結果、1985年の配給収入年間ランキング2位、観客320万人を動員する成功を成し遂げた。

 そしてこの『ゴジラ』はアメリカでも上映された! 『Godzilla 1985』として。しかし興行的にはふるわず、映画に対する評価も厳しかった。『Godzilla 1985』はアメリカ向けに再編集されていたのだ。

 シーンのいくつかは削除され、新規撮影されたシーンがつぎ足された。当時のアメリカではみんな邦画なんかバカにしていたから(一部のマニアを除く)、いいかげんな編集がまかり通っていた。追加されたシーンでは、アメリカ国防総省で軍人や各国政府関係者が延々と無駄な会議をやり、背後ではドクターペッパーの自販機が鎮座していた。当時はコカ・コーラとペプシによるコーラ戦争の真っただ中で、3番手以下のドクターペッパーは、マイケル・ジャクソンをCMに使ってヒットを飛ばしていたペプシに対抗してゴジラに賭けた。向こうがキング・オブ・ポップスならこっちはキング・オブ・モンスターってこと!

 ゴジラなんか核で吹っ飛ばせばいいんだ、と初代ゴジラを冒涜するようなことを言い出す米軍人に向かって、レイモンド・バー(初代ゴジラのアメリカ編集版『怪獣王ゴジラ』に登場した新聞記者役の人)演じる記者が「ゴジラは怪獣や津波みたいなものですから、大自然の驚異に対するようにゴジラを扱うべきです。理解し、交渉し、コミュニケートしては」などと言う。怪獣とコミュニケート! どうやって?(って似たようなシーン、70年代のゴジラにいっぱいあったわ)

 バカバカしさに振り切った『Godzilla 1985』の評価はさんざんで、最低映画賞のラジー賞とスティンカーズ最悪映画賞にノミネート。その後、『ゴジラ2000 ミレニアム』まで邦画ゴジラがアメリカで公開されることはなかった……。

 そんな感じで、邦画ゴジラは長い間、アメリカでは物笑いの種だった。1998年のローランド・エメリッヒ監督による『GODZILLA』は初のハリウッド製ゴジラだったが、やはり酷評された(もちろん一部のマニアだけは大喜びした)。

 ゴジラがまともな映画として評価されるようになったのは、レジェンダリー・ピクチャーズ製作「モンスター・ヴァース」シリーズの第1作となる2014年の『GODZILLA ゴジラ』からだ。

 今『ゴジラ-1.0』が全米の大好評の背景には「モンスター・ヴァース」の影響があるからだろう。『Godzilla 1985』よりもシリアスで、『GODZILLA』よりも凶悪な怪獣王の登場に全米が震撼した。

 アメリカはシリーズ最新作『ゴジラxコング 新たなる帝国』の公開を目前に控えて(3月29日公開、日本では4月26日公開)ゴジラブームが盛り上がっており、ゴジラに飢えたアメリカ国民に、その前菜として十二分に満足できるものが提供された……というところか。

 ちなみに2024年はゴジラ生誕70周年で、『ゴジラxコング』はそれを記念した作品だ。「70周年記念作品がなんでハリウッドなの?」と思うだろうが、東宝とレジェンダリーが結んだ契約で「ハリウッドで最新作が公開される年に日本の最新作を公開してはいけない」とされているから! なんで東宝のゴジラが海外の契約のほうを優先するんだ、と釈然としないものがあるんだが……。(→P2〈「原爆批判」「反核」のメッセージが薄い『ゴジラ-1.0』〉

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