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『ブギウギ』人を動かしてきた羽鳥と求めに応じてきたスズ子の「逆転」が生んだ「東京ブギウギ」(第19週)

『ブギウギ』人を動かしてきた羽鳥と求めに応じてきたスズ子の「逆転」が生んだ「東京ブギウギ」(第19週)の画像
イラスト/渡辺裕子

 とうとう誕生した「東京ブギウギ」。スズ子が踊って歌うステージを見ただけで胸いっぱいでした。趣里さん、すばらしかったですね。そして、しみじみといい歌ですね。

 愛助(水上恒司)が亡くなり愛子ちゃんが生まれ、「悲しい」と「うれしい」が同時にあるスズ子(趣里)の日々。仕事の誘いが来ても、彼女一人で赤ちゃんの面倒も見るのも大変。それでも、孫を引き取りたいというトミ(小雪)の申し出を断る心情、わかる。トミさんもひとりきりになって寂しいだろうに、スズ子に無理強いしない人でよかった。そして母娘をいい距離感で見守る麻里さん(市川実和子)や、みんなのジイになっている山下(近藤芳正)の存在が心強い。

 見守ってくれる人々や愛助との思い出に背中を押され、とうとう歌手に戻る決意をしたスズ子。彼女に「自分のために新曲を作って欲しい」と頼まれた羽鳥(草彅剛)は戸惑い、どうすればスズ子を輝かせることができるかと、ピアノの前で考え込んでしまう。

 今までの彼はどんどん曲が頭からあふれてきて「作りたいから作る」「それを歌わせたい人に歌わせる」いわば自分ファーストな人で、「私のために曲を」と相手から求められるのは初めてだったのかもしれない。

 彼とは逆に、これまでのスズ子は「やりたいからやる」というよりも「他の人の求めに応えよう」ばかりだったように見えます。少女の頃に歌劇団に入った時以外は、「君の歌はいい」と言われれば歌専門に、「東京に行かないか」と言われれば大阪から東京に、ストレートに恋心をぶつけてきた愛助を好きになる、など、自分よりも人の気持ちを大事に動いてきたような。もしかしたら子どもの頃にお母さんに「義理と人情やで」と教えられたからなのかなあ。

 相手を自分の思うように動かしてきた天才の羽鳥と、相手の求めに応じていた義理と人情のスズ子。その立場が逆転して、「私のために歌をつくってください」とスズ子に求められて悩みぬいた末に羽鳥が作ったのが「東京ブギウギ」。そしてドラマのオープニングの楽屋のシーンに戻ってくる。スズ子と羽鳥の物語が一周して、ここからまた新しい話が始まりますよ!と宣言されたような気がします。第一話ではなんだか軽薄に思えた、スズ子の派手な化粧と羽鳥の「トゥリートゥーワン」。でも今は、それらを手にするまでの彼らの戦いを知っている。

 舞台へ向かう前に「お母ちゃん行ってくるで」とキスで愛子ちゃんの頬につけられた口紅は、本当は片時も離れたくない愛しい存在に、スズ子なりの「お守り」をひとつ残していくようなものなのかもしれない。「みんなで育てればいいじゃない!」と、稽古場に連れてこられた愛子ちゃんの扱いに戸惑う人々を叱りつけたかっこいい茨田りつ子(菊地凛子)もいてくれる。そしてスズ子はひとりステージに駆けていき、思い切りお客さんを楽しませる。愛助が愛した、歌って踊るスズ子、おかえりなさい。

■番組情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス

出演:趣里、水上恒司/草彅剛、蒼井優、菊地凛子、小雪、生瀬勝久、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
作:足立紳 櫻井剛
音楽:服部隆之
主題歌:中納良恵 さかいゆう 趣里「ハッピー☆ブギ」
語り:高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
演出:福井充広、鈴木 航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原 誠ほか
プロデューサー:橋爪國臣
制作:NHK
公式サイト:nhk.jp/boogie

渡辺裕子(イラストレーター/コラムニスト)

渡辺裕子(イラストレーター/コラムニスト)

テレビ大好きイラストレーター。
テレビや映画について書いてるnote → http://note.mu/satohi11

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