『ブギウギ』が始まって3カ月、もう物語の折り返し地点になりました。ここまでの福来スズ子（趣里）のエンタメ人生は、なかなかアップダウンが激しい。うまくいった！　ダメだった！　でもなんとかうまくいった！　あ、また次の壁が！　こんな感じ。

　まだ「花田鈴子」だった幼いスズ子（澤井梨丘）。歌と踊りの世界に進みたくて人気の歌劇団の試験を受けたら不合格、別の歌劇団は試験日を間違えたけれどなんとか強引に歌わせてもらい合格。けれど入団したら華やかな団員たちに囲まれ、なかなか芽が出ないし練習はとても厳しい。それでもやっと「福来スズ子」の芸名でステージに立てたのに、リストラ、ストライキなどいろいろ事件が起こる。それを乗り越えた頃に東京で活動することになり、出会った作曲家・羽鳥善一（草彅剛）はスズ子の今までの歌い方を全否定。何度もやり直させられる中で「先生を殺したろか」と怒りながら歌ったらいい感じに。長いつけまつげで華やかに、ステージで激しく踊りながら歌う「スイングの女王」福来スズ子に大衆は拍手喝采、ところが戦時下なので「踊るな！　化粧するな！」と取り締まられ、とうとう劇団は解散。スズ子は自分の楽団を率いて、地方巡業するようになる。雇われの身から会社経営、みたいな感じでしょうか、たいへんな変化ですよね。

　スズ子の芸能についてのアップダウン以上に、彼女の人生のアップダウンも激しい。いつも明るく笑顔だからうっかり忘れそうになるけれど、彼女の周りからは親しい人が次々と去っているんですよね。歌劇団の先輩・大和令子（蒼井優）、実家の銭湯の常連客・熱々先生（妹尾和夫）。友だちの子であることを隠して育ててくれた強く優しい母・ツヤ（水川あさみ）、マイペースで愛にあふれていた弟・六郎（黒崎煌代）。亡くなったわけではないけれど、もう会えないかもしれない人たちもたくさん。故郷の香川に帰った父の梅吉（柳葉敏郎）とも、次に会えるのはいつなのか。

　数々の別れの中で、スズ子は大勢の大事な人とも出会っていくのですが、このドラマがおもしろいのは「出会った人の第一印象が、その人のすべてではない。こんな人だと決めつける前にもう少し見てみよう」と感じるところです。女遊びをしているように見えていた楽団マネージャーの五木ひろき（村上新悟）は、実際はひとりの女性を深く愛していて、彼女のために、楽団の金を持ち逃げしてしまう。誰にでもまず敵意を見せる付き人の小夜ちゃん（富田望生）は、勤め先で身を守るために必死で生きてきたことが、時々漏らす言葉からわかる。スズ子の周りにいる男たちに攻撃的なのは、彼女なりの防御姿勢。スズ子のパフォーマンスを初めて見て「下品」と評した「ブルースの女王」茨田りつ子（菊地凛子）は、それを彼女にしかない個性だと認めているのが、その後スズ子と共演したステージでの表情でわかる。ほんと、決めつけはよくないですよね。

　そして、愛助（水上恒司）。推しのスズ子に会いたいあまり、巡業先や下宿先まで押しかける熱意に「ストーカーすぎてこわいぞ」と思ってました。実際は、大事に育てられたために人との距離のとり方がわからず、相手の悪意などにも気がつかない、いいところのお坊ちゃんでしたね。愛する（そして超こわい）母・トミ（小雪）がスズ子に「常識がある人だと思っています」と、「だから常識のある行動しろ＝息子とは別れろ」と圧をかけてるのに、「お母ちゃんがスズ子さんを褒めてくれた！」という顔でニコニコしていた彼、その素直な性格は、長所なのか大きな欠点なのか……まあ、長所なんでしょうね、気が張っているスズ子の心のよりどころになるような。

　人生がどんなにアップダウンしても、いろんな人と別れても、もう一度上向きにしてみせるスズ子のパワフルさがこのドラマの魅力。そして趣里さん、菊地凛子さんたちの説得力あるすばらしい歌と踊りも大きな魅力。しかし、療養中の愛助の今後が気になります。ドラマ初回でスズ子が抱いていた赤ちゃんは彼の子なのか、その時彼が近くにいなかったのはもしかして……。また次の別れがありそうな予感がします。スズ子はこの別れもまた、パワフルに乗り越えていくのでしょうか。ああ、心配。

■番組情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
[NHK総合]　月～金 8:00-8:15 / 月～金 12:45-13:00（再放送）
[BSプレミアム・BS4K]　月～金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00（再放送）
[見逃し配信] NHKプラス

出演：趣里、水上恒司／草彅剛、蒼井優、菊地凛子、小雪、生瀬勝久、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
作：足立紳 櫻井剛
音楽：服部隆之
主題歌：中納良恵 さかいゆう 趣里「ハッピー☆ブギ」
語り：高瀬耕造（NHK大阪放送局アナウンサー）
制作統括：福岡利武、櫻井壮一
演出：福井充広、鈴木 航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原 誠ほか
プロデューサー：橋爪國臣
制作：NHK
公式サイト：nhk.jp/boogie