『ブギウギ』誕生の喜びと死の悲しみ、「あなたのスズ子」の終わり（第18週）
「赤ちゃんと2人きりのスズ子のシーンで始まった『ブギウギ』だけど、たまたまそこにお父さんがいなかっただけかもしれないし、大丈夫、愛助はきっと元気になるはず！」
これまでに大切な人を次々失ったスズ子（趣里）が、最愛の人・愛助（水上恒司）まで失うなんてありえないと、ずっとそう信じて（あるいは祈って）きました。しかしこの第18週、毎日愛助の姿を見るたびに、その祈りは届かないんだと思い知らされました。
東京に行きたくても医師が許可しない月曜日。ベッドに横たわってせきこむ火曜日。水曜日には熱にうなされ、スズ子には「食欲が出てきて快方に向かってるで」とハガキに明るい言葉だけ書いて送る。でも実際の愛助は、おかゆさえ喉を通らない。赤みが消えてげっそりとこけた頬、光が消えて黒い穴のようなうつろな目。木曜日、ベッドに横たわっているのは、死の匂いを濃く漂わせた愛助でした。
輝く瞳で、スズ子への想いを早口でまくしたてていた少年のような愛助と、今のぐったりした愛助は本当に同じ人なんでしょうか。メイクの力などもあるでしょうが、生きようとする戦いと、残していく人への愛を演じ切った水上恒司さん、すばらしかったですね。
愛助が病のために痩せていくのと対照的に、スズ子のお腹はどんどん大きくなる。愛助の病室の雰囲気は暗く、スズ子は大きなお腹を隠すことなく明るいスポットライトを浴びてカルメンを演じる。2人の明暗のコントラストのピークは、スズ子の出産が描かれた木曜日。坂口（黒田有）と山下（近藤芳正）のおじさん2人がなぜか父親状態でそばにいてくれて、大変だけど明るいドタバタの末にかわいい赤ちゃんが誕生する頃、愛助は力を振り絞ってスズ子への最後の手紙を書いている。「まだ見てへんけどめちゃくちゃ可愛いわ！」と浮かれた坂口がかけた赤ちゃん誕生報告の電話、でもそれを受けた矢崎（三浦誠己）は無言で崩れるようにしゃがみこむ。矢崎の表情は見えないけれど、きっと窓の外の大雨のように泣いているはず。そして私たちは愛助の死を悟る。坂口と矢崎はいつもいがみ合っているけれど、冷静な矢崎が本来の自分をさらけ出せる相手は、きっと坂口だけなんでしょうね。誕生の喜びと死の悲しみを交互に見せられて、息をするのを忘れるような15分でした。
金曜日の回、愛助の死を知ったスズ子に届けられた、愛助の最後の手紙。恋人同士の頃からの文通も、これで終わりなんですね。もう「あなたのスズ子」と署名した手紙は愛助に届かない。絶望しながらも愛助の言葉に助けられ、スズ子は娘の愛子と一緒に生きていく。しかしそれにしても彼女はあまりにもたくさん大事な人を失いすぎる。「つらいことがあったら歌ってください」と愛助は書き残したけれど、歌の力にも限度があるのではないかしら。どうかこれ以上彼女につらいことが起きませんように。
■番組情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
[NHK総合] 月～金 8:00-8:15 / 月～金 12:45-13:00（再放送）
[BSプレミアム・BS4K] 月～金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00（再放送）
[見逃し配信] NHKプラス
出演：趣里、水上恒司／草彅剛、蒼井優、菊地凛子、小雪、生瀬勝久、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
作：足立紳 櫻井剛
音楽：服部隆之
主題歌：中納良恵 さかいゆう 趣里「ハッピー☆ブギ」
語り：高瀬耕造（NHK大阪放送局アナウンサー）
制作統括：福岡利武、櫻井壮一
演出：福井充広、鈴木 航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原 誠ほか
プロデューサー：橋爪國臣
制作：NHK
公式サイト：nhk.jp/boogie
