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日仏の天才パティシエ2人が対談 辻口博啓がビターな20代を振り返る

編集部

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 フランスが誇る世界的パティシエ、ヤジッド・イシュムラエンの自伝をもとにした映画『パリ・ブレスト 夢をかなえたスイーツ』が3月29日から公開されている。

 スイーツに魅了された人間の物語であり、さまざまな夢を追いかける多くの人にとっての応援歌でもある本作の先行上映会が2月27日に渋谷のユーロライブで開催され、来日したヤジッド氏も出席。自由が丘のパティスリー「モンサンクレール」のオーナーシェフで、日本スイーツ協会代表理事󠄀の辻口博啓氏を迎えたトークセッションが行われた。

心を揺さぶるリアルさにこだわった映画

 22歳でパティスリーの世界選手権のチャンピオンに輝き、彗星の如くスイーツ界に登場した若き天才パティシエのヤジット氏。

 今回で5回目の来日ながら、“映画を携えての来日”は今回が初とのことで、「この映画を観に来てくださって、ありがとうございます。この作品は5年前に始まったプロジェクトですが、5年前はこの映画を携えて日本に行くと言われても、信じられなかったでしょう。いま皆さんの前にこうしていることが本当に夢のようです」と、挨拶した。

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 本作は、不遇な少年時代を過ごした孤独な青年が極上のスイーツで奇跡を巻き起こす感動のサクセス・ストーリー。主人公のモデルとなったヤジッド氏と同様、ゲストとして登壇した辻󠄀口氏も過酷な境遇の中で挑戦を続け、洋菓子の世界大会で数々の優勝経験を持つパティシエとして知られる。

 辻口氏は映画の感想について尋ねられると、「最初は『この映画にコメントを』ということで、何気なく観させていただいたんですが、ヤジットさんの人生と僕も重なるところもあり、非常に感動しました。夢を諦めず、目標に向かっていく姿勢も素晴らしくて、共感できるところです」と述べた。

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 原作者のヤジット氏は共同プロデューサーとして本作に参加。劇中で使用された20種類ほどのスイーツも自らつくったという。

「リアルさにこだわった映画なので、初めてこの作品を観た時は自分の中でいろんなリアクションがありました。『こういう時代もあったな』というノスタルジックな思いや、やはり悲しく思い出されるシーンもありましたね。とても幸せな感情なども込み上げてきて、いろんな思い出がリアルに蘇って来ました」

 今や南仏アヴィニョンやギリシャ、スイス、カタールなどに店舗を持つ人気パティシエで、実業家としての面も持つヤジット氏だが、パティシエを志した一番のきっかけを次のように語っていた。

「両親が不在だったことが多く、ずっと両親から『認められたい』『褒められたい』という感情がありました。そこで遊び半分でお菓子づくりを始めたんですが、いつの間にかパティシエになることが目標になっていきました」

トイレの石床で作った飴細工が銀賞に?

 一方、辻口氏は「僕は和菓子屋でケーキとかあまり食べたことなくて、当時はバタークリームのケーキが主流で、あまり美味しいとも思っていなかったんです」とトーク。パティシエを志したきっかけを振り返る。

「小学校3年生の時、友達の誕生日パーティーで生クリームのショートケーキが出てきたんですね。それが本当に美味しくて。お皿についたクリームまで舐めていたら、その友達のお母さんが『辻口くんの家にはこんな美味しいお菓子ないでしょ?』って(笑)。『うちの饅頭のほうが美味い』と言いたかったんですが、皿を舐めている時に言われたもんだから、言い返せませんでした。そんな悔しい思いもしたんですが、やはりその時の感動がずっと心に残っていて、いつしかパティシエの道を志すようになりましたね」

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 世界最大級のショコラ品評会『C.C.C.(Club de Croqueurs de Chocolat)』で7年連続最高評価を獲得し、うち2度アワードを受賞している辻口氏。本作で描かれた世界大会でのトラブルなどは、すべて実際に起きたエピソードとのことで、自身も大会での忘れられない思い出を紹介し、会場の笑いを誘っていた。

「26歳で出場した『シャルル・プルースト』で銀賞を獲った作品は、どの優勝作品よりも思い出深いです。150万の貯金を握り締めて、フランスでウィークリーのアパートと近所のパティスリーの厨房をお金払って借りる予定だったんですけど、材料を買うためのお金がないことに気づいて……。

 飴細工って石の上に流さないとできないんですが、借りたアパートのトイレの床が石造りで、飴細工の作品はアートの審査で審査員も食べないからってことで、アパートのトイレをきれいに掃除してつくったんです。まさか審査員もトイレの床でつくった作品とは思わなかったでしょうね(笑)。いまだに床が大理石のトイレとか見ると涙が出てくるという」

 こうしたエピソードを受けて、ヤジット氏は「お菓子づくりには気候条件も大きく影響しますが、文化も気候も違うフランスのコンクールに挑戦することは本当に大変なこと。敬意を表します」とコメント。

 続けて「お菓子は文化の象徴であり、人間のつながりをつくるもので、この映画の中にもそうした私のお菓子づくりの哲学が表現されていたと思います。反省を繰り返しながら着実にコツコツと、粘り強くやり続けること。皆さんに喜んでもらえるお菓子を通じて、私たち菓子職人にとって大切な価値観を伝えていきたいです」と、メッセージを送っていた。

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 また、後進育成やスイーツ文化の振興にも注力している辻口氏は、能登半島地震で大きな被害を受けた石川県七尾市の出身とのこと。最後に「ヤジットさんや僕のようにパティシエを目指す子どもたちに手を差し伸べていきたい」と、現在も精力的に取り組んでいる能登地方への支援についても語っていた。

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