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将軍と忍者が2024年に世界を席巻! 『SHOGUN 将軍』『忍びの家 House of Ninjas』ヒットの背景

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『SHOGUN 将軍』 ディズニープラスの「スター」にて独占配信中 ©2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks.

 忍者と将軍が世界中を騒がせている!?

 TOHOスタジオ制作となるNetflixドラマシリーズ『忍びの家 House of Ninjas』が、2月15日に配信されるや世界16の国と地域で1位を獲得し、世界92の国と地域でTOP10入り。Netflix週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)では初登場2位(集計期間の都合上2月15日~2月18日までの4日間が対象)、配信2週目にはトップとなる快挙を成し遂げた。日本で受けているならわかるが、世界中で人気を博しているのだ。

 その直後には、日本国内ではディズニープラス独占となるドラマ『SHOGUN 将軍』が配信されたが、評価サイトのRotten Tomatoesで17人の批評家によるレビューすべてが肯定的評価となり、スコア100%の満点に。3月に入ってレビュー数が増え(3月下旬時点では80人以上)、満点ではなくなったものの、それでも99%というきわめて高い評価を受けており、主演・プロデューサーを務めた真田広之とともに全米メディアの絶賛の嵐が巻き起こっている。

 将軍と忍者が日本を飛び出し世界を震撼させる! これはジョークでもおとぎ話でもないのだ。一体なぜこんな成功を収めたのか。

1980年版が起こした「ショーグン」旋風と、令和の『SHOGUN』

 まずは真田広之プロデュース/主演の『SHOGUN 将軍』について語ろう。オールスター戦争映画『大脱走』(1963年)の脚本などでも知られる作家ジェームズ・クラベルが1975年に発表した小説『将軍』(TBSブリタニカ)が原作となっているが、この日本を舞台とした架空の歴史小説は大ベストセラーとなり、1980年にも一度『将軍 SHŌGUN』としてドラマ化されている。

 日本の東宝撮影所で撮られた『将軍 SHŌGUN』は全米にて5夜連続で放送された。初回から異国人の船員を釜茹でにしたり、暴力の限りを尽くした後に小便をかけるというえげつない描写が目白押しで、第二次世界大戦の神風特攻隊を見たとき以来の「理解不能な日本の姿」にアメリカ人は震え上がったというが、同時に全米に「ショーグン」ブームを巻き起こす。どれぐらいのブームだったかというと、都市部に寿司レストランが次々開店し、高級メニューには大抵「ショーグン」の名前がついたほどだ。

 また、マーティン・スコセッシ、フランシス・フォード・コッポラ、スティーヴン・スピルバーグ、ジェームズ・キャメロンらを見いだした(こき使ったとも)「低予算映画の帝王」ロジャー・コーマンは、若山富三郎主演の『子連れ狼』シリーズをアメリカ向けにローカライズし、『SHOGUN ASSASSIN』のタイトルをつけ、B級映画専門の劇場でかけるとこれも大ヒット。

 さらには、日本のテレビアニメ『勇者ライディーン』『超電磁ロボ コン・バトラーV』『惑星ロボ ダンガードA』の3体のロボットが活躍するアニメシリーズがアメリカで作られ、『Shogun Warriors』と名付けられた。当然、元のアニメは3本とも特につながりはなく、設定等は大幅に変更されている。ちなみに玩具の「超合金」シリーズなどをアメリカで売り出す際にもこの「Shogun Warriors」という名称が使用されている。

 1980年版をリブートした『SHOGUN 将軍』の人気の背景には、現在のアメリカでかつてないほど「日本」が注目されているという状況がある。第96回アカデミー賞でアジア映画史上初の視覚効果賞を受賞した『ゴジラ-1.0』が、日本国内よりもアメリカでヒットしていることは以前に指摘したが、このヒットによりアメリカ人の目が日本に向いているのだ。

 『SHOGUN 将軍』は英語のセリフもあるものの、登場人物のほとんどは日本人で(日本の話なんだから当たり前だけど)、セリフも大半が日本語となっているが、アメリカでは吹き替え版ではなく、字幕付きのオリジナル音声で見ている視聴者が増えているという。かつて「アメリカ人は絶対に字幕版など見ない」と言われていて、非英語圏の映画は英語吹き替えで見ていた。なのにアメリカ人が「オリジナル音声のほうが世界観が掴める」といって字幕付きで『SHOGUN 将軍』を見ているのだという。

 そして度を過ぎたすさまじいバイオレンス描写だ。1980年版では、目黒祐樹演じる戦国武将が礼をしなかった老人の首を問答無用で刎ね、全米のブラウン管を血の色に染めた。今回もまったく同じシーンがあり、全米の視聴者が度肝を抜かれた。

 単なるバイオレンスだけではない。登場人物同士の政治的な駆け引き、高度な心理戦が展開される。真田広之演じる虎長(家康がモデル)は幼少の折に人質にされた経験があり、周囲が敵だらけであるがゆえに他人を信用できない性格で、絶体絶命の危機を凌ぎ生き残る策に長けている。騙しあい、裏切りで激しく絡み合う人間模様は、1980年版以上にドラマティックだ。

 この物語は、8年間にわたって展開した人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』を彷彿とさせる。

80年代には「忍者」ブームも

 だが、80年代にアメリカでブームになったのは「ショーグン」だけではない。『将軍 SHŌGUN』放送の翌年となる1981年には、イスラエル出身のメナハム・ゴーランとヨーラン・グローバスが率いた映画会社キャノン・フィルムズが制作した映画『燃えよNINJA』が公開されて大ヒット。主役のフランコ・ネロと対決する忍者ハセガワを演じたショー・コスギも一躍スターになった。

 そしてこのキャノンが忍者映画を大量に作り出し、アメリカだけでなく、香港でも忍者映画ブームが起こる。当時の真田広之も『忍者武芸帖 百地三太夫』(80年)、『魔界転生』(81年)、『伊賀忍法帖』(82年)、『伊賀野カバ丸』(83年)、そして香港映画『龍の忍者』(82年)とあらゆる作品で忍者を演じていた。サムライもニンジャも演じられる男!

 忍者ブームはさらに広がり、マーベルコミックの漫画『デアデビル』に1981年に登場したエレクトラという美女は、のちに忍者集団に仲間入り。1984年に誕生した『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』は、その名のとおり亀の忍者である。彼らの一人は忍者なのにヌンチャクを振り回すが、これは『燃えよNINJA』の影響と言われている。ちなみに『燃えよNINJA』でヌンチャクが使われた理由についてショー・コスギは、スタッフに忍者の知識がまったくないうえに、ロケ地のフィリピンでは忍者の武器は当然手に入らなかったため、仕方なく訓練用に持っていた自身のヌンチャクで代用したと話している。

 キャノンが始めた忍者ブームは粗製乱造によってあっという間に廃れたが、近年でも週刊少年ジャンプで連載された漫画『NARUTO -ナルト』(集英社)とそのアニメは世界的に大人気だし、アメリカ人作家コンビによる小説『ニンジャスレイヤー』(KADOKAWA)は逆輸入のような形で日本で旋風を巻き起こした。『ニンジャスレイヤー』における「ドーモ、○○=サン」といった独特の言葉遣いは『SHOGUN 将軍』で人をサン付けで呼ぶ影響かと思われる(翻訳であえてそうしているのではなく、元の英語の時点で「Domo, ○○-san」となっているのだ)。

 また児童玩具のレゴブロックには、忍者を題材にしたニンジャゴーというシリーズがあり、2011年にはデンマークや北米などでアニメ化され(日本でも『レゴ ニンジャゴー』としてテレビ東京系などで放送)、長寿シリーズとなっているアニメとともに息の長い人気を誇っている。(→P2〈現代における忍者を描いた『忍びの家』にはホームドラマやコメディの要素も〉

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