『ブギウギ』義理と人情のスズ子は“完璧な人形”から人間へ――（最終週）
『男女歌合戦』で不本意ながら若い水城アユミ（吉柳咲良）と競い合い、すばらしいパフォーマンスで観客を魅了したスズ子（趣里）。新聞にも「ジャズの女王復活」と大きく掲載され「新たな福来スズ子の誕生」という世間の評判とは裏腹に暗い表情のスズ子から飛び出た、突然の歌手引退宣言。「もうええやろ。ワテ、ようやったんちゃうか」って、そんなー、もっと歌ってよスズ子ー！と、テレビの前でどんなに私がジタバタしても彼女には届かないんですよねえ。
引退の意向を伝えられて、いつもどおり笑ってスズ子に話しかける羽鳥（草彅剛）の瞳に、徐々に怒りの光が宿っていくのを、ドキドキしながら見ていました。どんなピンチもニコニコとかわしてきた彼が、涙を浮かべた目と震える声で「本当に歌手をやめると言うなら、僕は君と絶縁します」とスズ子に厳しい言葉を投げつける姿は、今までの彼とは別人。あの笑顔は、彼の心の奥にある激情を隠す仮面だったのでしょうか。けれど、怒りに任せてスズ子を追い出すのではなく「仕事があるから」と自分が去る羽鳥先生、やっぱり優しい人だと思います。スズ子をひとりきりにせず、麻里さん（市川実和子）がなぐさめてくれるはずだと、妻のことを信頼している。
羽鳥とスズ子のつながりの強さに少し嫉妬しつつ「二人とも存分に苦しめばいいって思いますわ」と憎まれ口を叩きながら彼らを助けるのは、茨田りつ子（菊地凛子）。みんなからちょっと離れて、誰よりもみんなを見てくれている人。
りつ子のように、悪口言いながら誰よりもスズ子を見て理解しているのが、雑誌記者の鮫島（みのすけ）。以前も書いたんですが私は鮫島が好きです。「スズ子がいちばん書いて欲しくなくて、いちばん読者が読みたいこと」を記事にできるのは、ずっとスズ子を見続けて知り尽くしているプロだから。スキャンダラスな記事だし、スズ子には迷惑な話なんだけど、あれは彼なりのラブレター。そして「一曲、聴かせてほしいな」とぽろっと漏れてしまうのは、ファンとしての本音。
もういちど羽鳥を訪ねようとするスズ子と、スズ子を訪ねてきた羽鳥は玄関で鉢合わせ。同時に同じことを考えてるんですよねえ、このふたり。「羽鳥善一という作曲家をつくってくれたのは紛れもなく君です」と感謝されて、「先生とワテは、人形遣いと人形みたいな関係やと思うてます」と伝えるスズ子。スズ子は、自分を何度も救ってくれた羽鳥の歌を歌う、完璧な人形でいたかった。それができないから歌手をやめるという彼女の告白に、羽鳥は「なんてこった」と泣き笑いするしかない。
毎回オープニングで出てくる、美しい夢のように歌い踊る人形。彼女は最終回には登場せず、ステージにいるのは、人形から人間になろうとしているスズ子。羽鳥のピアノに合わせてしっとりと歌い上げられる東京ブギウギ、そして「トゥリートゥワンゼロ」でオーケストラの生演奏となり、スズ子の歌声でみんなが立ち上がる。いつのまにかテレビ画面を越えて、私もあのプラチナチケットと思われる客席に。歓声をあげる観客たち（懐かしい人がいっぱい！）といっしょに、泣きながら拍手していました。
幕は降り、歌手・福来スズ子の物語が終わっても、義理と人情の彼女の食卓の物語は続いていく。本音を言うと、私も大きな声で「おかわりや！」とスズ子にアンコールをねだりたいけれど、スパッと終わらせる彼女が好きだから我慢します。すばらしいラストコンサートを、ありがとうございました。
■番組情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
[NHK総合] 月～金 8:00-8:15 / 月～金 12:45-13:00（再放送）
[BSプレミアム・BS4K] 月～金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00（再放送）
[見逃し配信] NHKプラス
出演：趣里、水上恒司／草彅剛、蒼井優、菊地凛子、小雪、生瀬勝久、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
作：足立紳 櫻井剛
音楽：服部隆之
主題歌：中納良恵 さかいゆう 趣里「ハッピー☆ブギ」
語り：高瀬耕造（NHK大阪放送局アナウンサー）
制作統括：福岡利武、櫻井壮一
演出：福井充広、鈴木 航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原 誠ほか
プロデューサー：橋爪國臣
制作：NHK
公式サイト：nhk.jp/boogie
